「30年前の1000万年は現在の1000万円である。」
一見するとごく普通のことのように思えるが、これが日本の経済をとりまく諸問題を象徴する”異常”であることに気づくべきである。
消費税増税の不自然さ
2022年末現在、外的要因によってもたらされる意図しない物価高に日本国民が悲鳴を上げる中にあって、政府税制調査会はすでに消費税増税の議論を始めた。
これに対して「不景気の今は増税の議論よりも減税による景気回復の議論を!」と求める声が大きくなるのは至極まっとうな話である。
と同時に、もう一点国民が目を向けるべきなのが「なぜ増税=消費税なのか」という違和感である。
「先進国の消費税はもっと高い」はミスリード
消費増税の議論で必ず持ち出されるのが先進各国の日本より高い税率である。
が、この”消費税率”だけを取り上げた議論はミスリードである。
よく比較される先進各国は消費税収で社会保障を賄っている場合が多いが、日本は消費税以外に社会保障費という税金を強制的に徴収されており、これを合算するとそもそも税負担は先進各国と変わらないという見方も出来るのである。
税制は全体で考えるべき
消費税は全国民の消費行動に対して平等に税を負担させる制度である。
「金持ちと貧乏人が同じ税金を負担しているのは不公平」という見方もあるが、「金持ちほど贅沢して使う金額が大きいから納税額も大きい」と考えれば公平でもある。
理想的なことを言えば、食料品や生活インフラなどの生活必需品に掛かる消費税にしっかりと軽減税率を適用してもらえればもっと公平感は増すことになるが、これは”贅沢品に贅沢税を掛ける”論と同じで特別税率の適用項目、適用品目の選定が困難を極める上にどこまで言っても完璧な公平には至らないという側面もある。
であるならば、個々の所得額を見て”累進消費税”のようなものを適用できればかなり完璧な税制になりそうだが、これは運用の煩雑さという面で非現実的でもある。
(マイナンバーカード等を活用したかなり高度なデジタル化が進めばあるいは…?)
では、現在の日本の税制に於いて”税金として取り切れていない金”がどこにあるかと言うと、そのひとつが『金融所得』である。
1億円の壁
事実、総合課税且つ累進課税の方式を採用する給与所得の所得税は最大45%に昇るのに対し、分離課税かつ一定税率の方式を採る金融所得の所得税はどれだけ稼いでも約20%である。
大きな金融所得を得ることが出来るのは原資となる金融資産がもともと大きい金持ちであるため、金持ちほど軽い税率で大きな所得を得てさらに大きな富を生むという図式が成り立ってしまっているのである。
実際、所得額が大きいほどその中で金融所得が占める割合が高くなる傾向にあり、所得が1億円を超えるあたりで所得税の負担率が減り始める『1億円の壁』が近年話題となっている。
さらに言えば金融所得は現役の働き手である若年層よりも高齢者の方が多い傾向にあり、富が一部の高齢者に集中する原因になっているとも言えるのである。
経済成長しないことが高齢者にとっての利益
一部の金持ち高齢者へ課税する手段として資産への課税などが議論されることもあるが、そもそもは”30年間成長できていない”ことがこの歪みの元凶であるという考え方も出来る。
本来日本政府が目指しているのは”毎年2%程度のインフレ”である。
これは経済成長によって弱いインフレが続くような状態が理想的な経済状況であるという考え方で、事実、世界の先進各国はこの弱いインフレを成し遂げ続けている。
このような社会ではインフレに合わせて貨幣の価値が緩やかに下がり続けるため、高齢者の資産も緩やかにその価値を減らしていくことになる。
目減りする価値を補うために投資などによって金融所得を得るという手段が市場にお金を回し、目減りした資産の価値は回り回って若年層の富の一部になっていくのである。
では経済成長出来ない日本では何が起こっているかというと、まずインフレが進まないため高齢者の資産はずっとその価値を保つことが出来る。
減らない金融資産が生む金融所得は、お金を市場に回すことでインフレによって目減りする価値を保全するための手段ではなく、富がより大きな富を生むための手段となり若年層に回るはずの富を吸い上げてしまう。
「30年前の1000万円は現在の1000万円」
この一文が意味するのは現在の日本経済の歪みであり、税制とは本来この歪みを強制的に正す手段として用いられるものである。
それなのにこの本質に気づかずに(もしくは気づいていても意図的に)増税=消費税という安易な議論を持ち出す政府、政治家の違和感に、われわれ国民ははやく気づくべきである。
ABEMA TVでこの議論がわかりやすく展開されたプログラムがあるので参考にご覧頂きたい。
飯田泰之氏のわかりやすい解説が際立つ神回である。
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