問題は給特法だけじゃない  教育改革の本丸は業務量削減と教育の質向上

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公務という名のやりがい搾取

世間で働き方改革という言葉が持て囃されて久しいが、やりがい搾取の代表格ともいえる”教員”の働き方の歪みにもようやく注目が集まってきた。

中でも、教員の残業代を”一律4%”の手当てだけで丸め込み、実質サービス残業させ放題というやりがい搾取を正当化する悪法『給特法』に関する見直し議論が世論でも文科省内でも出始めている。

給特法が改正されて残業代がきちんと支払われるようになれば、度を越えた激務が常々問題視されてきた教員にとっては業務量が正当に賃金に反映されることになり、教員を抱える自治体にとっても嵩む残業代を通じて今まで目を背けてきた異常な勤務実態を知り改善に乗り出すきっかけになる。
勤務時間すらまともに管理されてこなかった教員にとって、待遇改善の一歩目として大きな意味をもつ変革になるはずである。

この給特法は誰が見ても不自然な旧世代の遺物であり、改正に関してはごくごく普通の価値観を持つ方々があたりまえに議論すればまず間違いなく行われる流れに傾くだろう。
実際の改正が早いか遅いかは指揮を執る文科省の本気度次第であり、『子ども政策』『教育改革』といった日本全体の課題に対する文科省のスタンスを推し量ることにもなる。

ぜひとも過去にまでさかのぼって”みなし残業”という枠で封殺された無賃労働に対する賃金をすべて清算していただきたいところである。

優秀な人材を教員に

残業代のみならず、教員の給与はそもそもそ職責に対して安すぎるという見方が強まってきている。
そして教員の給与面に関する待遇改善には教育に関する諸問題をも改善する幅広い意義がある。

まずは教員不足と教員の質低下。

教員不足は年々深刻になっており、東京都の教員採用試験の受験者数は10年前の約半数まで落ち込んでいる。
この問題に対処するため東京都は2022年に40歳以上の社会人に対して教員免許取得前の採用試験受験を認める方策を打ち出した。
さらに2023年には対象年齢を25歳以上(アルバイトを含む実務経験2年以上)まで広げ、社会人経験者の教員へのキャリア変更を後押しする方針である。
従来は採用試験に合格する見込みもない状態で教員免許の単位取得に時間を割く必要があったが、順番を入れ替えることで採用が決まった状態で安心して単位取得に時間を割けるため、仕事を持ちながら教員への転職をはかる際のリスクを軽減し、受験者の間口を広げる効果が期待される。

が、ここで重要なのは”間口を広げる”と同時に”優秀な人材を確保する”ことであり、間口を広げるだけでは片手落ちの対策であると言わざるを得ない。

ではどうするかと言えば、おそらく最も有効な手立ては教員の給与水準を大きく引き上げることである。

教員という仕事にやりがいだけではなく高収入が期待できるようになれば、それだけで優秀な人材の受験が増える。
もちろん教育への情熱を持たない待遇だけが目当ての受験者も増えることになるが、受験者全体のレベルが上がれば能力に欠けるものは自然と淘汰されていく。

旧タイプの情熱は不要

さらに言えば、”教育への情熱は強くないが能力面で優秀”な人材が集まることが教育改革の近道である。

というと語弊があるかも知れないが、要は”教育のためならどんな苦労も厭わない”という旧タイプの情熱は、”苦労したほうが偉い”という古い価値観に染まって非効率な長時間労働に自ら進んで耐えてしまうというパラドックスが起こるのだ。
”やる気のある無能が最も質が悪い”ということである。

逆に言えば”やる気のない有能”は、如何に労力を割かずに効果を最大化するかを考える。
無駄な残業をしないために無駄な業務を省き、成果のために必要な仕事にリソースを集中する。
この考え方が教員のブラック業務を改善するために必要な不可欠な考え方である。

教員の業務改善具体案

例えば筆者の手前味噌だが、知人の中学校教員の仕事内容をヒアリングしたうえで考えられるザックリとした教員の業務改善案は以下のようになる。

定期テストの問題作成と採点は不要

各学年において年間5〜6回ほど行われる定期テスト。
教員は担当教科のテスト問題を作成し、答案をひとつひとつ採点する。
必ず定期的にこの業務が発生し、定期テストの時期に教員の残業時間は増加する。
が、全くの無駄なのでこの業務はアウトソーシングしよう。

定期テストの問題は当然教科書に沿って作成されるのだから、教科書を作成して卸している業者にテスト問題の作成を一任すれば良い。
なお学校単位での授業の進捗のズレや、全国でテスト内容が統一されていると最近はSNSで解答が出回ったりすることも懸念されるため、複数パターンの問題を作成したうえで各学校の教科担当がパーツを組み合わせてテスト内容を完成させるような工夫は必要になるだろうが、それでも全国1万校を超える中学校で同じ教科書に沿っているにも関わらずバラバラに1万通りのテスト(×3学年で3万通り)が作成される非効率さに比べたらよほど労力の削減になるだろう。
採点も同様で、自動化、もしくは教員よりも単価の低い採点員でも雇って済ませたほうがよほど効率が良い。

テストの作成、採点業務をアウトソーシングして出来た教員の時間は何に使うかといえば、採点から見えた苦手箇所への手厚いフォローアップである。
定期テストの本来の意味は”普段の授業の成果確認”であり、塾とは違って公立学校教育は”出来ない子を置いていかない”ことに重点を置いている。
であるならば、出来なかった子、箇所へのフォローアップにより注力できる労力配分のほうが学力向上のためには絶対的に効果が高い。
言い換えれば、”テストを作る””答案を採点する”という業務は生徒の学力向上には無関係である。

授業は動画で良い

普段の授業において、教員は学習計画を立て、授業準備をする。
この日々の業務は動画に任せてしまおう。
今の時代、下手な教員の授業よりも教育系youtuberのほうがよほど教えるのがうまい。

では授業準備から開放された教員は何をするかといえば、これも内容についていけない子どものフォローアップに注力するのが良い。

公立学校に通う生徒は個々の能力がバラバラで、同じ授業内容でも理解の深さは千差万別である。
出来る子は教科書を読むだけでもすべてを理解できるし、大半は動画を見れば理解できるだろう。
だから教員は、”全国一律で決まっている授業内容をなぞる”よりも”理解できない子のフォローアップ”に回るのだ。

部活動は廃止もしくは外部指導員へ権限付与

部活動の指導は残業代が支払われない教員にとってサービス残業以外の何者でもない。
であるならば部活動は廃止し、地域のスポーツ活動へ任せてしまうのが良い。

とはいえ部活動廃止を唱えると「高校野球などの文化が失われる」という反対意見は必ず付きまとう。
そして筆者も実は部活動から学ぶことは多いと感じているひとりである。

だから、現状では外部指導員的な立場で教えている人材に自治体から資格と権限と報酬を与え、学校活動の一環である部活動をそのまま担ってもらえば良い。
押し付けられただけで部活動の内容に精通していない教員の引率は不要としてしまえば良いのだ。

部活動の顧問がやりたくて教員をやっている、という人にはこの際、どちらか一方を選択してもらおう。
二兎を追うものは一兎をも得ず。
教育の質を上げるのに必要なのは残業も厭わない体力ではなくスペシャリストである。

 

ここまで説明した業務改善内容は一見して現実味のない極論と捉えられるだろうが、民間企業で管理職を務めた経験のある筆者からすれば成果を最大化するための当たり前の取捨選択である。
”教員が挙げるべき成果”は子どもや子どもの学力と向かい合うことから生まれる。
決して事務、雑務から教育成果は生まれない。

教員の賃金アップのもう一つの効果

最後にもう一つ、教員の待遇を改善し給与をアップすることは経済対策としても効果が大きい。

”日本は30年間賃金が上がらない””経済成長が止まっている”と言われ、政府は各経済団体に賃金アップのお願いをしている。
が、政府及び各自治体こそ多数の公務員を抱える事業主であり、まずは自分の部下である公務員の賃金を上げることこそ必要なのだ。
自分の身銭は切らずに民間企業にだけ賃金が上がらないことの責任を追わせようとしている現状から見直すべきである。

 

日本全体の賃金アップ&適度なインフレの維持、実現のためにまずは政府及び自治体が率先して姿勢を示し、その結果として教員不足の解消、教育の質改善にまでつながるその一歩として、まずは給特法改正の行方を見守っていきたい。


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