「分配は無い。投資で増やせ。NISAに突っ込め。」を庶民が理解できない理由

※本サイトはPRリンクを含みます


岸田政権による成長戦略のひとつとして、国民への投資参加が呼びかけられている。
しかしながら、NISAの年数上限が引き伸ばされ、撤廃されたと聞いても正直ピンとこない。
一部のインフルエンサーは「今こそNISAに全額突っ込め!」と声高に叫ぶが、お金の仕組みなど習ってこなかった一般庶民の思考にすんなり染み入ることはない。

なぜなのか。

銀行に預けたお金は死に金

30年成長しなかった日本に於いて、一般庶民は「投資はハイリスク」なものであると認識してきた。

実際、社会全体が停滞しているのだから企業の価値も停滞し続けているというザックリ論で言えば、投資したとしてもたいして増えもせず、ただ市場に大事なお金を晒すというリスクしか残らない。
であるならば、お金が減ってしまう可能性がある投資よりも、増えはしないがほぼ確実にお金を保管できる銀行預金やタンス貯金のほうが安心である、という思考が30年の間に日本人に刷り込まれてきてしまったのである。

しかし本来、緩やかに成長を続け弱いインフレが安定的に進む経済が日本の目指す姿であるならば、銀行預金やタンス貯金は死に金となるはずなのだ。
なぜなら、インフレが進むということはお金の流通量が増え、同時に価値が下がることを意味するからである。

ザックリと例えるならば、1950年頃の平均年収は一説によると12万円だったらしい。
これを老後の蓄えとして預金し、令和となった現代に引き出すとどうなるか。
額面通りに保存されたお金は、令和の今、12万円として返ってくる。
頑張って貯めた1年分の収入が、引き出した時には1月分の生活費としても心もとない価値に下がってしまうのである。
(実際は利子がついて多少は増えるが。)

ではどうするのが正解かというと、お金は動かし続けることでその時々の価値にフィットしていく性質がある。
投資もその手段のひとつで、投資した企業価値が膨れ上がるにつれて投資したお金も膨れ上がっていくのである。

要するにお金の本質は額面ではなく価値であり、成長を続ける社会に於いては常に対等な価値のものと交換し続けることで自然と増えていくものなのである。

が、残念なことにこのお金の大原則が、成長を忘れた日本人、とりわけお金のない一般人には理解できない。
そして不成長の悪夢を実感したことがない上流階級出身の政治家で構成される政府にとっては、あまりに初歩的な価値観すぎるあまりいちから説明する必要性が理解できない。

そもそも庶民が理解しなくても良かった

では30年前までは全国民がこのお金の仕組みを頭で理解していたのかというと、決してそんなことはない。
いつの時代も国民は頭が悪い。

それでも、意識しなくても国民が経済成長の恩恵を受けられる仕組みは至るところにあったのだ。

年功序列

経済が成長すれば年功序列が成立する。
そこそこの能力、技術しかない会社でも需要に支えられて成長できたし、会社が成長すれば新たなポストが出来るから多少無能な社員でも勤続年数だけで出世できた。
毎年新入社員が入ってきて、いずれ自分も出世できるという確約があったから無能な上司にも優しく出来た。
そしてみんなが出世出来るから給料も上がってまた需要が増えての繰り返し。

逆に言えば、成長が止まればポストは空かず椅子取り合戦状態に突入。
無能な人から切り捨てられて成果主義に傾いていく。

財産価値

わかりやすいところで言えば、みんな持ち家を買った。
土地価格は上がり続けるから、持ち家を買えば最悪でも土地という財産が残り、場所が良ければ土地の価値が上がって土地成金にもなれた。
絵画などの美術品も同じく、お金を別の価値に換えて所有していることがステータスであると同時に、財産所有という形の投資にも繋がった。

成長が止まれば財産価値の上昇が停滞し、維持管理費や経年劣化、天災による損失リスクなどを加味して相対的な財産の所有価値が下がるため、財産を買うことはただのリスクになる。
挙句、賃貸vs持ち家などという不毛な議論を巻き起こしてしまう。

積立保険

身近なところで言えば、保険は謂わば庶民の投資代行的な側面があった。
庶民は万が一の備えという名目で保険会社と契約し、保険会社は集めた掛け金を投資運用することで大きな利益を得て、満期解約金という利益分配をおこなった。
十数年前、私の母が「そろそろ満期だからウン百万円もらえるわ」と言っていたことに強い衝撃を受けたことを覚えている。

が、成長が止まった現在では掛け捨ての安い保険だけが生き残り、庶民は如何に損しないかだけを考えている。

そもそも投資するお金がない

総務省の統計によると、中央値で見た場合に国民の殆どが投資のための余剰資金など保有していないことがわかる。

単身世帯では40代でも貯金額はせいぜい数十万円で、それ以下の年代の若者も含めてお金がないから結婚すらできない。
複数人世帯では逆に住宅ローンを抱えているため負債額が大きく、余剰資金など在るはずもない。

資産家でもある政治家たちはこういった日本国民の大多数を占める現状を知る由もなく、国民全員が投資に目を向ければ経済は上向くと本気で思っている。
もしくは、投資する余裕のあるお金持ちだけを暗に優遇しようとしているのかもしれない。

それぞれの立場の考え方が理解できないのだから、こんな政策がうまく行くはずがない。


Subscribe
Notify of
0 Comments
Oldest
Newest Most Voted
Inline Feedbacks
View all comments